大正新教育研究

大正新教育研究は私が大学3年次から行なっている教育史研究です。

学習指導要領が改訂されることが話題となっていた2019年頃、私はアクティブ・ラーニングに関する論文を読んでいました。この中で現代において進められようとしている子どもたちの主体的で能動的な学習を支援する教育が、明治末期~昭和初期に行われ、その教育は大正デモクラシーを皮切りに全国的に広がった「大正新教育運動」であることを知りました。

新教育運動には、与謝野晶子や有島武郎、芥川龍之介、北原白秋など、当時社会的に活躍した多くの文学者も関わっており、現在も芸能界で活動する黒柳徹子さんは、「新教育」を推進した「トモエ学園」の生徒でもあります。

そんな新教育運動の研究は、師範学校附属小学校や私立小学校のものは進められていますが、公立小学校である尋常小学校や尋常高等小学校の研究は資料不足などから依然進んでいません。

このため、私は卒業論文にて、「瀧野川尋常高等小学校における大正新教育の実践について‐本田正信の教育思想を中心に‐」という題目で、公立小学校の中でも特に新教育を推進し、全国へその活動を広めた瀧野川尋常高等小学校の新教育研究を行ないました。

 
そして、
①瀧野川尋常高等小学校第2代校長山崎菊次郎と、訓導本田正信の教育思想や瀧野川尋常高等小学校の教育実践から、従来新教育運動は国からの圧力により衰退したという定説を、中学校や女学校への受験志向が主な理由であった、と明らかにしたこと。

②瀧野川小学校で新教育実践を行なったうえで山崎が出版した『新総合教育の実践』の4章「総合学習に依る実践報告」の大部分が、瀧野川小や深川小で「山崎先生のシンクタンク」であった本田正信の著述であることを発見したこと。
 
③また従来、瀧野川小の新教育は、新教育運動で有名な奈良女子高等師範学校附属小学校訓導木下竹次の合科教育の影響を受けており、『新総合教育の実践』の序文も木下が記していますが、4章の「総合学習に依る実践報告」のほとんどを「集団主義教育」思想を広めた瀬川頼太郎の影響を受けている本田が書いていることを考えると、瀧野川小は木下の「合科教育」だけでなく、瀬川の「集団主義教育」の影響も受けていたことを明らかにしたこと。
 
 ④本田の深川小転出後の足取りを今回調査する中で、教職追放の可能性や、山口県教育委員会広報誌への掲載、晩年の地方新聞への寄稿、台湾の教育雑誌である『第一教育』の発見を行なうなど、今後の調査研究によっては、新教育研究、特に公立校の教員の実践研究や思想研究に対して何らかの方向性を示す研究となる重要な事実をいくつも発見しました。

結果、
卒業論文はその年の学会内最高評価を受け、

卒業論文を改訂し提出した論文が、
板橋区教育委員会主催櫻井徳太郎賞で大賞を受賞しました。


2022年度までは、博士後期課程において、不登校研究と大正新教育研究を織り交ぜた研究を行なうことをこちらのHPでも申し上げていたのですが、2022年度に修士論文を出したことにより、現在の自分が博士課程において成すことは、「不登校者の居場所の拡充」であるということが明確となり、そして2023年度より博士課程に進学後その想いが強くなりました。

このため、大正新教育に関する研究は今後細々と続けていきつつ、博士課程においてのメインとしては、不登校者研究を行なっていくことにさせていただきます。


※2022年8月24日には日本教育学会にて、

「瀬川頼太郎の集団主義教育とその教育的手法-公立小学校の教育実践を事例に‐」

という題目で発表を行ないました。


※2023年3月には、「瀬川頼太郎と大正新教育」という論文が、

 京都女子大学宗教文化研究所『紫苑』より発行されました。